ソリューションのヒント




    
 回は主として、企業情報システムの現状とその問題点について、その概略をご紹介しました。今回は、引き続き情報システムは、何故大変なのかという視点から、情報システムそのものや情報システムを取り巻く様々な周辺環境、や事情の複雑さについてご紹介します。要は、色々なことがあって、しかもそれらの構造が体系的に整理されていないし、難しそうな言葉・横文字(実際は難しくない)が氾濫していて、よくわからないように見えるから大変なのです。

まずは、情報システムアーキテクチャについて述べます。このアーキテクチャというのも実は困った横文字なのですが、単に”構成”とか”構造”とかいう感じだと思ってください。この部分で、企業の情報システムの全体の体系(全体像の構成)のようなものを掴んで頂ければと思います。また、次に情報システムを考えたり、運用したりする時に、どのようなインパクトがあるのか、どのようなことを考えなければいけないのかを説明します。最後に、どちらかというと企業の業務システム(アプリケーションシステムとも言います)とその運用についての現状のレベルを診断するための軸(ヒント)を少し解説します。

 回は、少し専門的な用語も多く少しわかりにくいかもしれませんが、辛抱して読んで下さい。細かいことはさておき、なんとなくイメージを掴んでもらえればと思います。

第2話 情報システムはなぜ大変か?
1.情報システムアーキテクチャとシステム運営の概念
 業の情報システムに関するアーキテクチャには、大きくはソフトウェアアーキテクチャとテクニカルアーキテクチャの2つがあるが、これらを適切に定義し、ビジネスの役に立つ企業情報システムを構築しなければならない。。
 さらには、その情報システムを運営(運用)するための仕組みが必要である。情報システムの運営には、単に既存のシステムの日常の運用管理や監視、障害対策だけでなく、アプリケーションシステムの維持管理(小改善や問い合わせ対応)、将来のIT投資の企画、システムエンジニアの人材の育成・管理、ユーザの情報リテラシーの向上、IT関連組織体制の確立などなどのいろいろなことが含まれる。
 


情報システムアーキテクチャ
ソフトウェアアーキテクチャ システムインフラアーキテクチャ

アプリケーションシステム構成
業務パッケージソフトウェア利用
システム開発方法論・ツール・標準

OS・ミドルウェア
ハードウェアプラットフォーム
クライアント端末・モバイル端末
ネットワークインフラ

際には情報システムのアーキテクチャをその企業のビジネスに対応して、きちんと合理的に定義できている企業は少ない。その理由としては以下のようなものが上げられる。
 ・情報システムのアーキテクチャは、その企業のビジネスモデルと、コアとなる業務プロセス(キーバリューチェーン)及びビジネスサイズに合わせて最適に定義する必要がある。
 ・情報システムアーキテクチャは、一定不変のものではなく、事業環境の変化やIT技術の進歩により、少しずつ進化していくべきものである。従って、時によってIT戦略も変化していくと考えた方が良い。
 ・情報システムアーキテクチャは、その企業の事業戦略、財務状況、業務プロセス、ビジネスサイズ、企業文化・風土などにも関係して変わってくる。

システム運営
システム企画・運用の仕組

IT組織,情報化企画
情報システム投資
IT技術・セキュリティ管理
システム運用・管理,障害対策
要員管理,人材育成
報システムアーキテクチャは,ソフトウェア,システムインフラ,の2つの要素で定義され
システム運営は,システム企画・運用の仕組を中心に定義される

ソフトウェアアーキテクチャ
アプリケーションシステム構成
基幹業務系(勘定系)システム
情報系システム
業務パッケージソフトウェア利用
ERP,SCM,CRM
業務パッケージ
システム開発方法論・ツール・標準
オブジェクト指向,UML,DOA,IE
開発ツール(環境)
2.情報システムへのインパクト
業情報システムへのインパクト要因と制約条件は上記に記したように非常に幅広いため,戦略的かつ計画的に,統合的な整備を推進していく必要がある。
 
た,システムのアウトソーシングを行う場合には,これらのことをよく理解し,適切な切り分けを行った上で委託することが重要である。よくわからないから,(刹那的に)費用が安くなるからなどの単純な理由だけで丸投げ的なアウトソーシングを行うことは,問題が多い。
3.システムのポートフォリオの評価
報システムは,その会社のビジネスを強力に支援する武器である。従って,情報システム・ITを考えるとき,自社の業務プロセスについて経営者・管理者が十分に理解をしておくことが重要になってくる。情報システム化という観点から,業務プロセスは大きくは3つのグループに分類することができる。

 第一グループ:その企業のコアとなる業務プロセスではない

 第二グループ:その企業のコアとなる業務プロセスであるが,業務の変化は比較的少ない

 第三グループ:その企業のコアとなる業務プロセスであり,業務の変化も激しい

 これらによって,開発されるシステムのアーキテクチャーや,アウトソーシングなどの取るべき戦略が変わってくるはずである。
 また,企業の情報システムの評価に関してもこれらの分類を考慮しつつ行なう必要があるが,その評価に関して,一つのポートフォリオモデルのようなものが考えられる。ここではシステムを,大きく2つの軸で評価する。システムの変化耐性軸と,システムの有用性軸の2つである。
化耐性軸は,アーキテクチャ軸と言い換えてもいいが,そのなかでもさらに,システム・アーキテクチャ,マネージメント・アーキテクチャ,システム規模の3つの軸が考えられる。

また,システムの有用性軸では,ビジネスへの貢献度(業務プロセスとシステムの乖離度),システムのコスト(コストバランス),システムの安定度の3つの軸が考えられる。

 具体的には,以下のような指標が上げられる。


システム・アーキテクチャ 関与するシステムの数,データの統合度,機能モジュールの独立性
マネージメント・アーキテクチャ 自社でのコントロール度・開発・運用力
システム規模:主としてソフトウェア規模
ビジネスへの貢献度 必要不可欠な機能の整備度合,システムの活用の度合
システムのコスト システム運用コスト,システム開発コスト
システムの安定度 システムの開発・運用体制,システムの信頼性,システムの安全性(セキュリティ)


 これらの指標をベースに各軸の相対的な数値(段階)を割り出し,システムのポートフォリオの評価を行なうというのがこのモデル(これは一つの試案である)のベースであるが,まだ具体化についてはこれからの課題である。

まとめ
回は,情報システムの大変さについて,何故大変なのかという視点から,情報システムそのものや情報システムを取り巻く様々な周辺環境,や事情の複雑さについて述べたつもりである。

 要は,色々なことがあって,しかもそれらがよくわからない(ように見える)から大変なのである。実際には,システム開発の技術の詳細を除けば,ITだからといってそれほど変わったことはなく,ただむやみに3文字熟語や難しそうな言葉が出てくるというのが問題なだけである。
営者・管理者にとって重要なことは,個々の詳細の技術的な内容ではなく,企業情報システムの全体感と,関連する周辺事情に関しての自社にとってのインパクトの大きさのイメージを掴んで頂くことではないかと考えている。そのための切り口を少しご紹介したものである。
回からは,マスメディアやベンダーや大手コンサル会社を中心に喧伝されている,情報システムの”常識?”や,”はやり”のようなものについて取り上げ,経営者や管理者が情報システムに対して持たれていると思われる”幻想”について,順次検討をしていく予定である。